癃閉(りゅうへい:排尿異常)について

 1968年生まれの私は昨年12月とうとう50歳になりました。自分ではまだまだ若いつもりでいたのですが、体は徐々に衰えてきています。おととしは右目の白内障の手術しました。また、今までに比べて歯も衰えてきたようです。今まで固いものを食べても何でもなかったのですが、最近は硬いものが苦手になってしまいました。虫歯は無いのですが、力を入れて物をかむとヒリッとすることが多いです。また、1週間ほど前、部屋の模様替えをしたのですが、家具を移動したり、かがむ姿勢が多かったためか、腰を痛めてしまいしばらく痛みが続いていました。それに加えて、このところどうも夜中にトイレに目が覚めてしまいます。いずれも、腎虚のような症状です。私も「腎」が弱ってきているようです。

 夜間のトイレといえば、昨年9月と今年3月、松浦薬業さんの漢方(中医)講演会があって癃閉(排尿異常のこと)について学ぶ機会がありました。講師の関口先生の講演は非常にわかりやすく、すぐに実践に役立ちます。私はこれまでずっと漢方について学んできましたが、どの本を見ても名医による名人芸的な感が否めず、統一的に理解できず、知識としてもあやふやでした。そのため、お客様に漢方薬をお勧めする際には何となく藪をつついているような感じがあったのですが、この講座をうけるようになってから藪の中に光が差したような気がします。今回はこの癃閉について復習してみようと思います。

 

排尿困難には癃閉と淋証があります。癃閉も淋証も小便が出づらく場合によってはポタポタとなって残尿感を伴う現象です。大きな違いは1日の総尿量で、癃閉は1日の小便量が正常よりも減りますが淋証は変わりません。次に小便の頻度(回数)ですが、癃閉は正常時と比べて回数がかわることはありません(回数は変わらないが毎回の小便量が減る)。淋証は回数が増え、何度もトイレに行きたくなります(毎回の小便量が減って回数が増える)。

 ここで、尿のつくられ方(水液代謝)について説明します。

 東洋医学的な水液代謝では上焦の肺、中焦の脾、下焦の腎、それに三焦がかかわります。(臓腑の関係などについてはそのうちまとめます)三焦は水の通り道と考えられていて肝の疏泄によりスムーズに津液が流れています。食物から得られた水分は脾の働きにより上に持ち上げられます(運化水液)。持ち上がった水分は肺の働きにより下におろされます(通調水道)。下に降りてきた水は腎の作用により膀胱で尿となります。この際に必要な水分は再度腎の働きにより上に持ち上げられます。腎は膀胱を”支配”していて尿路の開閉をコントロールしています。

 以上のように水液代謝には肺、脾、腎、肝、膀胱、三焦がかかわります。排尿障害がある場合はこれらのどこかが悪くなっているわけです。

 尿量が減少するメカニズムなのですが、大きく2つに分けて考えます。一つは濁陰が腎膀胱まで到達しないもの、もう一つは到達しているが膀胱の気化(後で説明します。物理化学の相転移の気化とは違います。)や開闔(かいこう)の失調、尿路の閉塞で尿が出ないものです。

 前者は上焦と中焦に問題がある場合と水道全体に問題がある場合があります。後者は下焦の腎と膀胱に問題があります。

まず、前者についてです。上焦の肺は外邪(温熱邪の感受)に侵されることが多く、肺熱壅盛から粛降・津液輸布の失調を起こし水道不利、膀胱に下輸しないという病機となります。

水の通り道である三焦の流れが悪くなる場合においては肝の疏泄の悪化がかかわっています。肝の働きは情志の影響を受けます。ストレスなどが原因で排尿異常が起こっているケースです。

脾は運化・昇清を担っています。ここに不具合があると濁陰が下に降りていきません。脾の働きが悪くなるのは脾気虚ですが、疲れや長患いの病気などが考えられます。

後者の腎、膀胱の異常においては実と虚があります。実においては膀胱湿熱が考えられ、虚の場合は腎陽虚です。これらのほかに尿路の閉塞が起こりうるのは瘀血や結石です。

 以上のことを念頭において患者様(お客様)に問診を行っていくのですが、問診の仕方については次の機会にしたいと思います。

 

では。